『はせがわくんきらいや』長谷川集平

「よるのいちにち絵本喫茶」テーマ絵本より

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やはり長谷川集平さんはとりあげなくては、ということでこちら。

この絵本は長谷川さん自身が「モリナガ」抜きには今の私は語れません。と言っているように、長谷川さんを含め当時多くの子供達の人生を狂わせ、大きな影響を与えた事件「森永乳業ヒ素ミルク混入事件」を題材にしています。

事件は昭和30年森永乳業徳島工場で製造されたヒ素入りのドライミルクによって乳児が死亡するというものでした。流通したミルク缶を飲んだ西日本を中心とした推定2万人以上の乳児が身体に異常をきたし、昭和32年当時で125人の赤ん坊が死亡するという痛ましい内容です。

当時産まれたばかりの長谷川さんもこのヒ素入りのミルク缶を3缶飲み、事件を知った母親が母乳に切り替えたことでいま生かされていると思っているようです。だから、この本は長谷川さんと、ずっと長谷川さんのなかにいる、旧友のともだちになってまもなく死んでしまったA君、そしてT君、R君、N君たちがこの物語の本当の主人公なんだと思います。そして少年だった彼らが本当に声を大きくして責めたかったのは「はせがわくん」ではありません。

病弱で愚図で足手まといのはせがわくん、言葉も通じているのかわからないし、何をやらせてもできない。
はせがわ君の面倒は大変で、面倒で、迷惑かけられるし、野球なんてできやしない、そんなはせがわくんが主人公はだいきらい。

―「なあ、おばちゃんなんで長谷川くんあんなにむちゃくちゃなんや。」
 ゆうたら、おばちゃんはため息をついた。
 「あのね、あの子は赤ちゃんのときヒ素という毒の入ったミルク飲んだの。それから、体こわしてしもたのよ。」

「おばちゃんのゆうこと、ようわからへんわ。なんでそんなミルク飲ませたんや。おばちゃんのゆうことわからへん。」

(略)

長谷川くんもっと早うに走ってみいな。
長谷川くん泣かんときいな。
長谷川くんわろうてみいな。
長谷川くんもっと太りいな。
長谷川くん、ごはんぎょうさん食べようか。
長谷川くん大丈夫か。
長谷川くん。
長谷川くんといっしょにおったらしんどうてかなわんわ。
長谷川くんなんかきらいや。―――


後半の、この主人公の少年のさけび。その言葉の向こう側にある悲痛な気持ち。
犠牲になってしまった長谷川くんへの無念。

これは、事件を起こした大人、防げなかった大人みんなに受け止めてほしいと思います。




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