『小さな花の王様』クヴィエタ・パツォウスカー

よるのいちにち絵本喫茶 テーマ絵本より

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チェコの絵本作家クヴィエタ・パツォウスカーの作品。

この絵本単品のレビューは難しい。ということで、クヴィエタの生み出す絵本たちのことをレビューしようと思います。

まず私が初めて出会ったのはクヴィエタの作品『Alphabet』。
これをインタラクティブなCD-ROM絵本にした『アルファベット』という作品があったんですね、インタラクティブに動く絵本です。これは、インタラクティブの名の通り、ユーザが気の向くままにマウスを動かしたり、キーボードを叩くだけで、絵が動き、色彩が変化し、音色が奏でられていきます。

これはどういうことかというと、絵本のように構図や絵に作者の意図を描けないんですね。
それなのに、彼女の作品世界は破たんしないし質も落ちないんですね。
つまり動いても動かなくても変わらないんです。

私なりに解釈したのは、クヴィエタの作品に登場するものはすでに「キャラクター」として確立しているということです。彼らはおのおのがすでに物語を内包していて、文字として語る言葉はそれほど重要じゃないようです。
どれも作者の手を離れたら勝手に動き出すように進んでいき、添えられた文章もそれらのためのほんの伴奏のようにしか思えない。
物語はキャラクターたちが作っているので、動いても動かなくても本質は変わらないのです。
添えられた文字すら登場人物として動き出す場合があります。
この『小さな 花の王様』もそうで、王様とお姫様がいてこうなるのは当たり前という感じなんですね。
舞台を見るような絵本、そういう位置づけでこの絵本の奥行きをぜひ楽しんでみてください。

残念ながらこの『小さな 花の王様』とCD-ROM絵本『アルファベット』はともに絶版、廃盤となっています。
CD-ROMは再生環境がとても古いのでいまのPCでは開けません(残念)。
古い再生環境をお持ちで、興味のある方はお貸ししますので店主までお声掛けくださいね。


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11:22 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『不思議の国のアリス』ルイス キャロル(原作)ヤン・シュヴァンクマイエル (画), 久美 里美 (翻訳)

よるのいちにち絵本喫茶 テーマ絵本より

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チェコスロバキア・プラハ生まれのシュルレアリストの芸術家、アニメーション作家・映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルが最初の挿絵を担当したジョン・テニエルへのオマージュとして画をつけた「不思議の国のアリス」。
エスクアイア マガジン ジャパンから刊行された書籍『アリス』新装版のために描いた描き下ろしコラージュ作品をぜひ堪能してください。
もちろんこの絵本を機に「不思議のアリス」の読みなおしもオススメ。

2007年にラフォーレ原宿で開催した「ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 〜映画とその周辺〜」では実験的シュルレアリスムの作品と触角芸術のグロテスクさに度肝を抜かれましたが、見た人いらっしゃいますか?
去年も同じ展覧会をラフォーレ原宿でやっていますので反響あったと思うのです。

ヤン・シュヴァンクマイエルのすごさはこれ1冊ではなかなか伝わりにくいと思うのですが、不思議の国のアリスに親しんだ方がヤンを知るにはよい1冊かなと思いました。

賛否でそうな作品ではありますが、一見したグロテスクさを超えたメッセージ性の強さには脱帽します。




15:46 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『ぼくはいろいろしってるよ』アン&ポール・ランド(作),青山南(訳)

よるのいちにち絵本喫茶テーマ絵本より

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アンとポールの絵本をもう1冊紹介します。
主人公の男の子がつぎつぎと自分の知っていることを話し語ってくれる絵本。
その子の視点で語られることにときどき「ハッ」とさせられて、子どもの瑞々しい感性に気づかされます。

そして最後のページ

「うん ぼく は こんなに いろ いろ しってるんだ でも おおきく なると もっと もっと いろ いろ しってるんだ よね」

これには動きがとまってしまいましたね…。
この男の子以上に私たち大人は何を知っているかな?
もしかすると大事なことはあなたの方が知っているかも、という思いが頭をよぎってしまう。

この男の子からの裏側のメッセージをきちんと受け取れる大人になっていたいなと思います。




15:01 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『きこえる!きこえる!』アン・ランド (著), ポール・ランド (著), 谷川 俊太郎 (翻訳)

よるのいちにち絵本喫茶テーマ絵本より

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雑誌「Esquire」のAD、IBMやUPSのCIなどを手掛けたアメリカのグラフィックデザイナー、ポール・ランド。
あまりにも有名なかたですネ。
この絵本はポール・ランドと妻のアンが娘のために手がけた絵本「Listen!Listen!(原題)」を谷川俊太郎が翻訳したもの。1970年制作なので実に40年以上も前の作品。

お話は優しく語りかけていくように、いろいろな音をきいていく繰り返しなのですが、「きく」という行為がただ音をきくことだけではなくて、体を使って「感じる」ことが描かれています。
体で「きく」こと。それは世界を「感じる」こと。

『沈黙の春』で知られるレイチェル・カーソンが

―「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないのです。―

と言っているように、ポールとアンも同じことを娘キャサリンに伝えたかったんじゃないかと思います。
小さな子どもを持つお父さんやお母さんに読んでもらって、子どもたちと一緒にいろいろ感じてもらいたいし、同時にそういう感覚を鈍らせてしまった大人のみなさんにも、心や体で「きく」ことを思い出してもらいたいと思うのです。

それにしても、「でも、うへへ、きこえたかな…」と訳す谷川俊太郎さんのセンスにも脱帽です。









11:45 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『おこちゃん』山本容子

よるのいちにち絵本喫茶 テーマ絵本から

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山本容子さんの自伝的絵本。
おこちゃんとは小さい頃の山本容子さんのこと。
絵本のなかのおこちゃんは、とにかく好奇心と気分とおもいつきで、次々といろんなことをしでかします。
おこちゃんの行いは周りのおとなをびっくりひっくり返してばかり。
でも、この天真爛漫なおこちゃんが山本容子さんの素地となっているんだろうなあと素直に思えます。

山本容子さんの「おこちゃん」への温かい眼差しは、大人のみなさんにぜひ感じてもらいたい。
こんな風に自らの幼少期を振り返って、小さな自分を慈しんであげたいですね。
昔の自分はこんな子だったな…と思うのは、いまもきっとそうだということなんですよ^^

山本容子さんの銅版画も独特の彩色でとても綺麗です。
おこちゃんの着ているワンピースが彩度の高いライトブルーなのも、元気いっぱいおこちゃんによく似合っていて印象的^^

ぜひ手にとってみてくださいね。




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『パパのカノジョは』ジャニス レヴィ (著), クリス モンロー (イラスト), もん (翻訳)

よるのいちにち絵本喫茶 テーマ絵本から

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これは絵本らしくないというのが最初の印象です。
短編小説を読んだくらいの読後感がありました。

お話は、父子家庭で育つ女の子の目線でパパの新しいカノジョがどんな人物なのか語られるお話なのですが、それによるとどうやらカノジョは大変な変わりもの。その変わりもの具合を鋭く観察して列挙するも、不思議なことにパパとは一番ながく付き合いが続いているという。

他人と違うことに堂々としていて、固定観念で決めつけない、自分にも変に媚びたりしてこないマイペースなカノジョの評価が女の子の目をとおしてだんだん変わってきます。

大人が子どもに対してついとりがちな横柄さがなく、一人の人間として向き合ってくれるカノジョのことが最後は大好きに。年に関係なく人との間の信頼関係を築いたカノジョ。

この絵本は「こうありたいおとなのスタンス」がカノジョをとおして描かれています。
決して驕らずこういう大人に私もなりたいですね。
10:09 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『ペンギンのペンギン』デニス・トラウト作 トム・カレンバーグ絵 谷川俊太郎 訳

「よるのいちにち絵本喫茶」テーマ絵本より

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奥付をみたらビックリ。初版は29年前の1983年。手元にあるのは1993年第10刷。
リブロポートから出版されましたが、リブロポート版はいまは絶版となっています。
現在では2003年に中公文庫―てのひら絵本から復刊されて入手可能みたい。
こちらの版では、原文と谷川俊太郎の対訳が同じページにあって原文にあたりながら読めるようですよ。

リブロポート版は小さくて薄く、本文もイラストにキャプションスタイルで文章も短いです。風刺的で哲学的、ユーモアは完全に大人向け。
若いころの私はとにかくこういうひねった(素直じゃなかったのね)内容のものが大好きだったんですよね。

本書のなかで数々の偉業を成し遂げるペンギン。高貴なプライドを持ち、いたずらもウィットに富んでなければならない、そんな美学を感じさせる内容です。
ただし、困ったことにどんなに格好つけて無頼をきどっていても、ペンギンなので可愛いいという。

気になったらぜひ手にとってみてくださいね。



14:41 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『はせがわくんきらいや』長谷川集平

「よるのいちにち絵本喫茶」テーマ絵本より

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やはり長谷川集平さんはとりあげなくては、ということでこちら。

この絵本は長谷川さん自身が「モリナガ」抜きには今の私は語れません。と言っているように、長谷川さんを含め当時多くの子供達の人生を狂わせ、大きな影響を与えた事件「森永乳業ヒ素ミルク混入事件」を題材にしています。

事件は昭和30年森永乳業徳島工場で製造されたヒ素入りのドライミルクによって乳児が死亡するというものでした。流通したミルク缶を飲んだ西日本を中心とした推定2万人以上の乳児が身体に異常をきたし、昭和32年当時で125人の赤ん坊が死亡するという痛ましい内容です。

当時産まれたばかりの長谷川さんもこのヒ素入りのミルク缶を3缶飲み、事件を知った母親が母乳に切り替えたことでいま生かされていると思っているようです。だから、この本は長谷川さんと、ずっと長谷川さんのなかにいる、旧友のともだちになってまもなく死んでしまったA君、そしてT君、R君、N君たちがこの物語の本当の主人公なんだと思います。そして少年だった彼らが本当に声を大きくして責めたかったのは「はせがわくん」ではありません。

病弱で愚図で足手まといのはせがわくん、言葉も通じているのかわからないし、何をやらせてもできない。
はせがわ君の面倒は大変で、面倒で、迷惑かけられるし、野球なんてできやしない、そんなはせがわくんが主人公はだいきらい。

―「なあ、おばちゃんなんで長谷川くんあんなにむちゃくちゃなんや。」
 ゆうたら、おばちゃんはため息をついた。
 「あのね、あの子は赤ちゃんのときヒ素という毒の入ったミルク飲んだの。それから、体こわしてしもたのよ。」

「おばちゃんのゆうこと、ようわからへんわ。なんでそんなミルク飲ませたんや。おばちゃんのゆうことわからへん。」

(略)

長谷川くんもっと早うに走ってみいな。
長谷川くん泣かんときいな。
長谷川くんわろうてみいな。
長谷川くんもっと太りいな。
長谷川くん、ごはんぎょうさん食べようか。
長谷川くん大丈夫か。
長谷川くん。
長谷川くんといっしょにおったらしんどうてかなわんわ。
長谷川くんなんかきらいや。―――


後半の、この主人公の少年のさけび。その言葉の向こう側にある悲痛な気持ち。
犠牲になってしまった長谷川くんへの無念。

これは、事件を起こした大人、防げなかった大人みんなに受け止めてほしいと思います。




14:07 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『星の王子さま バンド・デシネ版』 ジョアン・スファール (著), 池澤夏樹 (翻訳)

よるのいちにち絵本喫茶のテーマからより

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これは絵本じゃなくてコミックですよね?
そんな声が聞こえてくるのは承知のうえで、こんなのもありますけどいかがでしょうか?というご紹介です。

タイトルにあるとおり、星の王子さまのバンド・デシネ版、つまりフランス版コミックです。
コミックなので1コマ1コマに吹き出しのセリフがついています。
池澤さんが頑張って訳下ろししております。

フランスのバンド・デシネといえば、巨匠メビウス(残念ながら今年3月に亡くなってしまいましたね)を思い浮かべる人がいると思いますが、コミックを超えた何か不思議な空気があります。
イラストレーションにただただ惹かれる作品やアートとして作られた作品など。そして実験的な試み。
好き嫌いはあれど「そんなばかな」という企画で大胆不敵な作品がでてくるときがあって、この作品はまさにそれかなと。

原作を愛するがゆえに、なんとも受け入れがたい気持ち反面、そういう思い込みや制限をなるべく外してまっさらな気持ちでいま目の前の作品を読んでみたいといつも思っているので、手に取った作品です。

星の王子さまの性格がだいぶはっちゃけていておかしいのですが、ユーモアと哲学が入り混じった不思議な読後感は一見の価値ありかと。バンド・デシネ初めての方もそうでないかたもまずは手にとって素直に読んでみてください。おもしろいですよ。

●版元のサンクチュアリ出版のサイトもご紹介しておきますね。
http://www.sanctuarybooks.jp/lepetitprince/





12:07 | 絵本1000冊 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

『絵本 星の王子さま』 サンテグジュペリ (著), 池澤 夏樹 (翻訳)

よるのいちにち絵本喫茶のテーマ絵本から

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池澤直樹の「絵本版」星の王子さま

星の王子さまとの出会いは中学1年生。万年筆と星の王子さまを母がプレゼントしてくれたものが最初。内藤濯さん翻訳のものでした。

何回読んでも、つかみどころがない不思議な本。いまでもそういう印象です。それなのになぜこんなに好きなんでしょうか。理屈ではないんですよね。読み飽きることがないし、年を重ねたいま読んでも新鮮な気持ちで楽しめる本当に不思議な魅力の作品だと思います。

そして今回紹介するこの「絵本版 星の王子さま」は、実は訳者の意図的な思惑があって、超訳とも言えるだいたんに変更された訳にばっさりと章なども省かれた簡易版です。

訳者の池澤直樹さんが巻末に「大人のための訳者のあとがき」という明確ないいわけをしてくださってますので、抜粋して引用しますね。

引用ここから-----

作者のサンテグジュペリは『星の王子さま』を子どものために書いたと言っている。

けれどもそれは、子供が読んでぜんぶわかるとか、大人が読んでもおもしろくない、という意味ではない。子供にも訴えるが、子供には読み尽せない、大人だって読み尽せない。ぼくはこれを50年前から読んできたし、翻訳もしたけれど、それでも作者の言いたいことが全部わかったとはとても言えない。
 これはそういう不思議な本だ。
 幼い時に出会って、ずっと読み続ける本。

『星の王子さま』にはすばらしい絵があるから幼い子も入っていける。だが、その先で文章の論理がむずかしかったり、比喩がわかりにくかったりする部分でつまずいて、それっきりこの本との縁が切れてしまったらどうしよう?

そういう部分を省いて、言い回しも少し変えて、幼い子がすらすら読める特別版を作ったらどうか、というのがこの本を作った意図である。だからこれは本の文章に忠実な翻訳ではない。

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とある。ここを読んで思ったわけです。池澤さんは幼い子供が理解できるようにと言っていますが、意外と大人もそうじゃないかな?と。
正直自分に当てはめてみると、気が付いていない比喩がたくさんあります。
だから読み直しておもしろかったりするのですが、幼いころにつまずいたままの大人やこれまで『星の王子さま』を読んだことのない大人が結構いるような気がします。
つまずく前に出会ってない、いまから出会っても遅くないこの名作をあらためてオススメしたいのです。

でも大人は子供以上に読書の時間が減っていると感じています。毎日家事や仕事や育児に追われるお母さん、週末も予定がいっぱいで、、そういう人にまずこれをどうぞと言ってみたくてとりあげました。

省略したとはいっても、原著の魅力は消せるものではないし、文章以上にモノを言うこのイラストを堪能することができます。

これで物足りなかったら、以下の4冊もありますので手にとって見てください。
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左上から
『新訳 星の王子さま』 倉橋 由美子 (翻訳) 宝島社文庫
『星の王子さま』池沢 夏樹 (著) 集英社文庫
『星の王子さま』 河野 万里子 (翻訳) 新潮文庫
『愛蔵版 星の王子さま』内藤 濯 (翻訳) 岩波書店






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